第一章:人生初の詐欺勧誘被害、地獄の始まり からの続き
ルノアールを出て、大戸屋で昼食。
カツ丼を奢ってもらうが、あまり食が進まない。
何故、こうも厄介なものを持ってくるのか、佐々木を恨んだ。
この日はルノアールでも大戸屋でも、佐々木が自分から奢ってくれた。
ターゲットには金を払わせないのも詐欺の手口の一つなんじゃないかと思った。
ただ、今思うと佐々木のプライド、見栄だったんじゃないかとも思える。
気になっていた、56万円という大金の工面について佐々木に聞く。
のり「ところで、56万はどう用意したの?貯金?親に借りた?」
佐々木「親に言ったら絶対に反対されるし、言うわけないじゃん(笑)学生ローンで借りたよ。」
のり「まじかよ、、、いくら借りた?」
佐々木「56万の他に、投資元本もスマホも必要だから60万。みんな60万借りてるよ。学生ローンは一社30万円までだから、二社行けば60万借りれる。」
のり「まじかよ、、、そんな簡単に借りれるの?」
佐々木「そりゃ、海外留学するとかテキトーに嘘つけばすぐ借りれるし、心配することはない。お前が学生ローン行く時には俺も付いていくし!」
佐々木は昔から金遣いが荒かった。貯金などあるはずがなかった。
しかし、こんな無計画な馬鹿だとは思わなかった。
審査が甘い学生ローンもクソだ。
絶句。
のり「・・・」
佐々木「お前も親に言うなよ!俺らもう成人してて大人なんだから、自分の責任で行動できるようになろうぜ!(どや顔)」
絶対に、成人したばかりの無知な大学生をターゲットにしているのだろう。
成人の恐ろしさについて、身をもって学んだ。
私は佐々木とは正反対の性格で、物欲も全くなく、
バイトで稼いだお金は使わずに将来の資産運用のために溜めていたので、
56万のDVDを一括で購入することは可能だった。
しかし、一括買いが出来ることを伝えると不利になると考え、
「貯金は30万程度あるけど、30万円は借りなきゃダメだな」と伝えた。
また、ねずみ講やマルチ商法のような性質があると思い、
気になっていたことを聞く。
のり「佐々木は、俺が入ったら紹介料とかもらうんじゃないか?」
佐々木「そんなのはないわ!」
連鎖販売取引の象徴であるマージン(紹介料)はないという。
※実際は嘘であったが、私はこの一言を信用し、それ以降改めて確認することはなかった。
また、佐々木を勧誘した田中のほか、同じ中学校出身の金田からの紹介で湯川もWARRENに入っていることを知る。
正直、田中と金田は、詐欺をやらかしそうな奴だった。
しかし、湯川は人望が厚く、意外すぎて信じられなかった。
出身中学校で蔓延している事が悲しく、
まさか自分の周りでこんな事になるとは思わなかったため、かなりショックだった。
13時頃、ベローチェ(カフェ)へ移動。
階段で地下フロアに降りると、すでに田代が待ち構えていた。
飲み干されたカプチーノのカップの乾燥具合から、おそらく朝から滞在している。
午前も同じようなことが行われたのだろうか。
初対面であるが、馴れ馴れしい。距離感が苦手だ。
田中と同じく、(痛い)意識高い系のにおいがプンプン。
完全に怪しい。
先に挨拶だけ済ませ、自分の飲み物を買うために1人で席を立ち、一階に向かう。
階段から2人の様子を見たとき、録音機を持ってこなかったことを激しく後悔した。
当時、私はガラケーユーザーだったので、持ち合わせの機器で録音作戦を実施することは出来なかった。デジカメのムービー機能を用いた録音を考えたが、バレる危険が大きいため辞めた。
2人は何かを話しているが、その怪しい会話内容を知る術は無かった。
アイスコーヒーを買い、席に戻り、
田代に色々な話を聞き出す。
田代「いやー、WARRENに入ってから、儲かって儲かって仕方ないんだよね。この腕時計はナントカのブランドで、この財布はナントカのブランドで、、、(腕時計チラリ)(財布チラリ)」
マジでハイブランドなんか興味ないからやめてくれ。
とにかく田代の時計自慢、財布自慢がうっとおしくて仕方ない。
この組織のどこまでが嘘かは分からないが、とにかく全てが疑わしい。
田代に負けじと佐々木もよく喋る。
佐々木「俺は来年3月末までの半年間で100万円を貯めるのが目標で、勝算はある。このペースで投資が上手くいけば、パフォーマンス通りの成果が得られれば、無理なく達成できる。」
佐々木には借金60万円が丸々残っているため、半年で160万円必要となる。
なぜか自信満々で怖かった。
あと、執拗に「今となれば56万円なんか安いわ」と、金銭感覚の変化をアピールしていた。
田代が帰り、佐々木は次に田中を呼ぶという。
田中も『たまたま』新宿にいるそうだ。
次々と内部者に会わせ、常に数的優位を作るのは完全に詐欺性質だなと思いつつ、
詳しい内部情報を聞き出すためにも田中に会うことにした。
全て計算されているかのように、すぐに田中が来た。
中学校卒業以来の再会。
意識高いのは悪くないが、
この数年間、ずっと痛い方向に全力疾走していたようで、
かなり進化している。
いらすとやの『意識高い系の人のイラスト』のモデルは田中だと思う。
中学時代はあまり喋ったこともないのに、めちゃくちゃ馴々しい。
午後から佐々木にデートの予定があることは知っていたが、
田中と二人きりになるのも嫌だし、なんだかんだ理由をつけて、
佐々木にも話を聞き、この場に残らせる。
ついに限界が来たのか、申し訳なさそうに、かなり焦って退席する。
ちょっとだけ、今日の復讐をしてやった。
田中と二人きりになり、田中がさらに馴々しくなる。
徹底的に馬鹿を演じ、煽てると、思うようにどんどんボロを出してくれる。
田中「WARRENに入ってから視野が広がった。ベローチェのコーヒーの原価とかも考えられるようになったね。セミナーではそういった経営の話もする。俺は社長になることしか考えてないよ。」
田中「秘密の話だから詳しくは言えないんだけど、組織には昇格システムがあって、頑張り次第では給料ももらえたりする。俺は佐々木を含めて7人も入会させて、すでに教育にも携わってるから、ワンランク上にいる。いずれ、セミナーの講師もすることになるから、その時はよろしくね。」
田中「まぁ、俺なんかまだまだだよ。俺を紹介してくれたのが金田だけど、金田の上に田代が居て、その上に2人は挟んで、トップに啓太さんがいる感じかな。みんな将来社長になるから、社長の人脈って感じで誇らしいよ。しかも、みんな海外志向なのが最高。啓太さんは本当に凄い人だから、直接話を聞けたことに感謝しろよ!」
田中「あんまり言っちゃいけないんだけど、学歴高い優秀なやつも多いよ。東大のやつもいるし。WARRENで学べることと上智で学べることを比較すると、上智はおままごとだね(笑)」
内部情報を沢山入手することが出来た。
田中のような、特別感と優越感を混同してしまう人間は、『秘密』という言葉が好きすぎるが故に、『秘密』を漏洩しがちである。
間違っても、信用してはいけない人種。
連鎖販売的な性質を持ち、佐々木は最低でもてっぺんから数えて7代目であることが分かった。
限定200という希少性に疑問が生じる。
のり「田中が6代目で、田中が7人も入会させてるなら、単純計算で限定200はとっくに突破していないか?」
田中「そこは、俺の人脈を褒めるところ(笑)田代も金田も5人しか入会させてないからね。なかなかここまで結果出せてるやつは居ないと思うわー(どや顔)」
田中は地獄のミサワだったっけ。
鳥肌が立つ。
田中が書籍『金持ち父さん、貧乏父さん』を鞄から取り出す。
田中「簡単に説明すると、この本の裏表紙にある通り、釣竿で一匹ずつ魚を釣ろうとするダサいサラリーマンじゃダメなんだよね。網で効率よく大量に魚をとるには、人脈が一番大事。いわゆる『普通の人生』に待ち受けるは、、、地獄のラットレース(どや顔)」
最後には『金持ち父さん貧乏父さん』を出し、
”マルチ商法従事者のバイブルとしての解釈”を押し付けてきた。
これは完全に舐められた。良書も解釈次第では毒になることを学んだ。
※解釈さえ間違えなければ、普通に良書です。おすすめ。
別れ際、
田中に「ここまで知っちゃったら、もう入るしかないでしょ」と言われるが、
そんなの知らない。
17:30、新宿を出る。電車の中でめちゃくちゃ悩む。
さっきは佐々木や田代や田中への憎悪だけで行動してきたが、
一人になって冷静になると悲しくなってきた。
この時は、帰宅後にインターネットでこの組織についてググれば全て解決だと思っていた。
※当時、私はガラケーしか持っていなかった。
しかし、そんな甘い話ではなかった。
帰宅後、期待を抱きつつ、WARRENについて調べまくるが、全くヒットしない。
「投資 DVD 56万」
「WARREN 投資組織」
「投資詐欺 56万」
「WARREN 石井」
などなど
本日手に入れた情報を元に、あらゆるキーワードで検索をかけるが、
当時はインターネット上には1つも情報がなかった。
めちゃくちゃ焦る。
被害情報が一切ないので、もしかしたら『本当に稼げるまともな組織』だという可能性も出てきた。
、、、だとしても、啓太や田中や田代の人間性に全く魅力を感じなかったため、
ピラミッド組織で彼らの下に配属されるのはごめんだ。
皮肉なことに、佐々木と湯川以外に魅力的な人間が居なかったことが救いとなった。
そんな中、佐々木から電話がかかってきた。
佐々木「田代や田中の話はどうだった?俺も今から家に帰るけど、少し話さないか?」
しつこいのも詐欺性質だとさらに疑念が生じる。
しかし、ネットで全く情報が入らないなら本人から情報を得る以外に方法が無い。
家に呼び、会うことにした。
とにかく早く違法性を知り、佐々木を問い詰めたかった。
この時も『救いたい』という気持ちより、『懲らしめてやりたい』という気持ちの方が強かった。
22:30頃、家で待つ。すると佐々木から連絡。
何故か田中を呼んだとの事。
この時かなり強い雨が降っていたため、
この悪天候の夜中に、佐々木について来ることに恐怖を感じた。
この時点で分かっている組織図は下記のとおり。
第三章:圧倒的情報不足、苦悩の半年間 へ続く。
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