【哲学小説】水素爆弾取り消しプロジェクト【バタフライエフェクト・多世界解釈】

⑥哲学者ごっこ

今回は、
普段とは毛色を変え、

哲学をテーマに短い小説を書いてみました。

「バタフライエフェクト」「多世界解釈」に関する内容です。

短くてすぐ読めると思うので、
是非最後まで読んでみてください。

〈この記事の対象者〉
・FIREやサイドFIREに興味がある人
・労働から解放されたい人
・今より自由に生きたい人

〈注意点〉
筆者の経験と考えを書いていきます。
共通点が多いほど参考になると思います。

〈筆者の特徴〉
30代前半、独身、超倹約家、元社畜、元薬剤師、ゆるいミニマリスト、賃貸暮らし(基本社宅で自己負担小)、負債ゼロ

水素爆弾取り消しプロジェクト

A国は、水素爆弾の世界唯一の被爆国であった。

投下から50年目の節目にあたるその日、A国では例年と同じように「活動」が行われていた。

ねじ曲がった感情が複雑に交叉し、そこには「従来の反戦活動」とは少し違った雰囲気がある。

その主訴は、もっぱら水素爆弾を投下したB国に対するヘイト・賠償請求であった。

A国のヘイト活動の副代表はこう言う。

「私の祖母は水爆のせいで左腕を失った!そのせいで50年間も不自由な生活を余儀なくされ、私もこの目でその姿を見ていていたたまれない気持ちになった!B国は責任を取れ!」

A国のヘイト活動の代表はこう言う。

「私の祖父をはじめとし、水素爆弾により我々A国の5万人もの命が奪われた!B国はその全ての命に対する責任を負え!」

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B国の首脳は、年々過激化するA国のヘイト活動・賠償請求に頭を悩ませていた。

確かにB国はA国に対して「過剰な攻撃力を持つ」水素爆弾を投下し、A国を壊滅状態にさせることで戦勝国となった。

しかし、水素爆弾投下前にA国に対して無条件降伏を促し、再三に渡って忠告を行った上で、A国がそれを聞き入れなかったために止むを得ず投下したという経緯もあった。

また、敗戦国となったA国も同様、B国へ攻撃を仕掛けて多数の命を奪ってきた。

喧嘩両成敗であり、一方的に言われ続けることは理不尽でもあった。

それでも、B国は祖先の過ちと真摯に向き合った。

A国に対し、毎年多額の賠償金を支払い続けた。

それでも止むことはなく、むしろ毎年、賠償金の額は膨らみ続けていった。

B国は、エスカレートするA国からの賠償請求に頭を悩ませた。

一方、A国はB国からの膨大な賠償金で生計を立てていた。

「水素爆弾による被害」を口実に、自国での生産活動を停止させ、B国からの賠償金で50年間生きてきたのだ。

そして、B国は10年前から画期的な「最大の償いプロジェクト」を進行させていた。

その名も、「水素爆弾取り消しプロジェクト」。

国策として多額の研究費用を投じ、科学の叡智を集結させ、タイムマシンを作成し、A国の最も望む「水素爆弾を投下しなかった世界線」を実現させようという壮大なプロジェクトであった。

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投下から50年目の節目、プロジェクト開始から10年かけ、ようやくそのプロジェクトが完結した。

「水素爆弾投下」という1つのイベントを取り消すことだけを目的に開発されたタイムマシンは、著しく不完全であった。

SF映画で描かれるような「過去にも未来にも自由に行き来できる便利な代物」ではなく、「50年前の水素爆弾投下前」に片道で行ける最低限の機能しか備えていなかった。

投下から50年目の節目にあたるその日、A国のヘイト活動の訴えを聞き終えた後、B国の首脳が「水爆取り消しプロジェクト」の概要を説明した。

普段は国交を断絶している両国であり、A国に対しては今日ここで初めて伝えることであった。

「我々は、A国の一番大きな訴えをやっと叶えることができます。これにより、我々B国もやっと償いを果たすことができます。本当に申し訳ありませんでした。」

それを聞き、A国の活動員たちは抱き合い、歓喜した。

B国に膨大なコストを背負わせ、献身的な研究に膨大な労力を費やさせ、謝罪をさせたことが嬉しかったのだ。

そして、水素爆弾投下の事実が取り消され、待ち望んだ平和が訪れる・・・。

A国のヘイト活動の代表はこう言った。

「私たちの望みが叶えられる日が来た!これにより、”平和な世界の姿”を見ることができる!私は楽しみだ!祖父に会うこともできるかもしれない!一刻も早く、その水素爆弾取り消しプロジェクトを実行せよ!」

B国の首脳はその言葉を静かに受け入れ、それまでの険しい顔から一転し、優しい顔になったように見えた。

その後、両手を合わせながら丁寧に頷き、「水爆取り消しプロジェクト」を実行した。

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「水爆取り消しプロジェクト」が実行された。

その場から、A国のヘイト活動の代表、副代表、全ての活動員の姿が消えた。

いや、この世界から、A国のほとんど全ての国民の姿が消え去った。

その代わりに、たった今まで存在しなかったA国の国民の新しい顔がそこにあった。

A国のヘイト活動の代表が言った通り、確かに、そこには”平和な世界の姿”があった。

※この物語はフィクションであり、実在する国や組織に対するメッセージ性は何もありません

解説(バタフライエフェクト・多世界解釈)

この哲学小説の解説については、
別記事でまとめます。

「水素爆弾取り消しプロジェクト」の主訴について、
考えてみてください。

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